大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和25年(ラ)185号 決定

一、当事者

抗告人 甲野一郎

右抗告代理人弁護士 相馬喜作

二、主  文

本件抗告はこれを棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

三、理  由

本件抗告の理由は末尾添付の抗告理由書記載のとおりである。

よつて判断するに、本件記録に顕れた資料によれば、原審において本件準禁治産宣告の申立をした乙野太郎は事件本人である抗告人甲野一郎の妻花子の実父である事実、抗告人は栃木県那須郡両郷村大字中野内千六百六十七番地に住所を有し、田一町数反歩、畑約一町歩、山林八、九反歩を所有して農を本業とし、明治三十八年四月十四日生れの働き盛りであるところ、大正十二年三月二十九日婚姻した妻花子との間には長男義男を始めとし、三男五女を挙げ、抗告人を世帯主として家族全員で農業に従事している事実、抗告人は昭和二十二年四月から居村の村会議員に当選し、その職にあるところ、昭和二十三年十一月頃元塩原大字塩原千代の家の藝妓某と馴染みになり、昭和二十四年十二月頃より那須郡芦野町大字芦野に同女を住まわせ、爾来、抗告人は主として同女方に起居し、食糧の運搬、同女方の生活費の調達等のため時折居村自宅へ帰る始末で、家業の農業には殆んど従事しない事実、抗告人は昭和二十三年十一月頃より昭和二十五年三月頃までの間、同女のため、又は同女との共同生活の維持の必要上約二十万円前後の金銭を費消し、これがため、その間、抗告人の家族が働いて得た米、麦、煙草の供出代金、納税準備貯金を持出し、所有山林の雑木を約四十五万円で他へ売却し、居村知人A、B、C、D、E、その他から借金し、負債は略七、八万円に上る事実、抗告人家の生計は、これがため逼迫し、昭和二十三年度および昭和二十四年度の村税、県税は滯納となり、遂に抗告人家の馬一頭は滯納税のため差押を受けるが如き状態に陷入つた事実、抗告人は、親族、知人等よりの再三の忠告を受けるも、その意を飜さず、依然その生活態度を改めない事実を、それぞれ認めることができる。

以上の事実を総合して考えれば、抗告人はその資産に相応しない財産の処分行為をしたものであり、もしこのまま放置するにおいては、抗告人の資産は蕩尽せられ、家族が財産上困窮するに至ることは見易いところであるから、抗告人を浪費者であると認めるのを相当とし、原審申立人の本件準禁治産宣告の申立は理由がある。

もつとも本件記録によれば、抗告人の妻花子が数年前から中風症に罹り、と角病臥中である事実は認められ、抗告人としてその家庭に不満足であることは同情の余地があるが、既に子女八人の父として家庭の中心となり、又村会議員の公職にもある身としては、その置かれた地位における責任も当然に重く、右の事情のみにより資産浪費を正当なりと解することは許されず、その他右認定を覆すべき反対の資料はない。

されば、原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないから主文のとおり決定する。

抗告理由書

事件本人に対する審判理由中に借財をなし、浪費したとの理由は、家政のための借財で、全く浪費した事実のないのに準禁治産者の宣告をしたのは不服であるから、本件抗告に及んだ。

抗告理由

本件抗告人の妻花子は約十年前より中風症(動脈硬化症)にて、病床にあつて女性としての機能が全然無い。抗告人は四十六歳で老齢に近いとは云え、未だ男子として清僧の如き生活を続けることは忍び得ない。それで抗告人は俗に謂う妾として塩原の某藝妓を迎え入れた。而して親子夫婦と同棲することは、妻の病に悪影響を慮つて、他に同女と共に別居した。併し同女を遊ばせて生活させるだけの経済上の力量が抗告人にないから、資本を出して同女に中古衣類商を営ませた処が、折り悪しく衣類品の値下りを喰つて資本の大部分を喪失した。これを申立人等は浪費したといいがかりをつけたものである。併し前記のような次第で抗告人は浪費したものでない。唯営業上の失敗をしたに過ぎない。従つて準禁治産の宣告は不当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!